京都地方裁判所 昭和57年(ワ)664号 判決 1984年5月31日
原告 三品次雄
右訴訟代理人弁護士 森川明
被告 石川精一
<ほか一名>
右被告ら訴訟代理人弁護士 川瀬久雄
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し金一四八万八五一三円及びこれに対する昭和五四年五月四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文同旨
2 仮執行免脱宣言(予備的かつ担保条件)
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 発生日時 昭和五四年五月四日午後一時二四分頃
(二) 発生場所 京都市中京区河原町通三条交差点
(三) 態様
大型乗用バス(京阪バス)を運転し河原町通りを北進してきた原告が同バスを右折させるべく対向南進車両をやり過ごすため停車中、おりから原告運転車両に続いて普通貨物自動車を運転し北進してきた被告石川精一が自車を原告運転の前記バス左側後部に衝突させ原告に対し頸椎捻挫の傷害を負わせた。
2 被告らの責任
(一) 被告石川精一は前方を注視して運転すべき義務があるのにこれを怠り、漫然自車を北進させた過失により右事故を惹起したから、民法七〇九条による損害賠償責任がある。
(二) 被告石川光治は前記事故の際、加害車両を所有し保有するものであったから、自賠法三条により損害賠償責任がある。
3 原告の治療経過
原告は本件事故によりこうむった頸椎捻挫の治療のため、昭和五四年五月四日より同年一〇月八日までの間(実日数一〇〇日)大津市民病院に通院し、翌一〇月九日より昭和五六年一一月二八日までの間(実日数四二五日)守山市所在の石塚接骨院に通院した。
4 原告の損害
(一) 通院慰謝料 一六〇万円
(二) 給料減額分 一七万円
事故前三ヶ月間の原告の受けていた給与の平均日額は九九一三円であった。原告は昭和五五年五月二五日より職場復帰し、少しずつ仕事を再開したが、身体の回復状態は十分でなく仕事に支障が生じ、このため原告の現実に受け取った給料は、従前の平均額に比べ、同年六月分でマイナス一一万四六円、同年七月分でマイナス三万二八一七円、同年八月分でマイナス二万四七〇九円、同年九月分でマイナス七二九一円となった。この合計額の中から一万円未満の端数を除いた金額が給料減額分である。
5 損益相殺
原告は自賠責保険より慰謝料ないし休業補償として二八万一四八七円を受領しているから、前項の賠償さるべき金額から同額を控除すると残賠償額は一四八万八五一三円である。
よって原告は被告らに対し各自一四八万八五一三円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和五四年五月四日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告らの認否及び主張
1 請求原因1の事実中、傷害発生の事実は否認し、その余は認める。
本件事故は、原告車(大型バス)の後部バンパー左側が僅かに凹損したのみで、その修理費も三万四〇〇〇円にとどまった。それに、一〇数人の乗客は誰一人として傷害を負っていないのであるから、原告のみが傷害を負う筈がない。
2 同2の事実のうち被告石川精一に前方不注視の過失があったこと及び被告石川光治が加害車両の保有者であったことは認め、被告らの責任は争う。
3 同3の事実は不知。
4 同4の事実は否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1の事実中、原告の受傷の事実を除き本件事故の発生については当事者間に争いがなく、また、同2の事実中、被告両名の責任原因事実についても当事者間に争いがない。
すると、被告石川精一は民法七〇九条、同石川光治は自賠法三条の各規定に基づき、本件事故により仮に原告が損害をこうむったとすれば、それを賠償すべき責任がある。
二 原告の損害及び事故との因果関係
《証拠省略》を総合すると、原告は本件事故直後の昭和五四年五月四日から同年一〇月八日まで、左頸部より左肩にかけての緊張感や痛みなどを訴え、頸椎捻挫の病名により大津市民病院に通院し、その後、頸部及び左肩関節各捻挫の病名により昭和五六年一一月二八日まで(実日数四二五日)、石塚整骨院に通院し、愁訴もなくなったこと及び原告主張の間に約一七万円程度の給料の減額のあったことは一応認められる。
しかし、《証拠省略》からすると、被告運転車両が原告運転のバスに追突した際、その衝撃ではバスを移動させるには至らなかったこと及びバスが移動しない限り運転者の上体姿勢に変化を与えることはできず、バスの座席の背もたれがあまり高くなく、原告の頸部が衝撃を受けやすい状態にあったとしても、運転者である原告に傷害を与えることはないことが認められ(る。)《証拠判断省略》
もっとも《証拠省略》によれば、原告には本件事故当時、加令的変化である軽度の頸椎の変形や項中隔石灰化が認められたこと、かかる症状は事故と関係なく項部痛、頭痛及び肩凝りを伴うことがよくあること、そして、原告の場合は右の愁訴が出やすい状態にあったことが認められるのであるから、さきに認定した原告の愁訴は、右症状に起因すると解するほかないというべきである。ただ、本件事故が原告の精神面に微妙に影響して、右愁訴が発現したことは否定できないが、これだけをもって、未だ法律上の因果関係ありとするには足りない。
以上の説示からすれば、原告が本件事故により損害をこうむったとは認め難いというべきである。
三 よって本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石田眞)